美形悪役が好きだ:
「エル・アルコン -鷹-」ティリアン 1

2021/08/26

ネタバレ 美形悪役が好きだ - エル・アルコン:ティリアン

 青池保子 著「エル・アルコン -鷹-」、10代の私に大きな影響を与えた少女マンガ。
 16世紀のイギリスを舞台に、スペインとの開戦を目前にした、スペクタルロマン!

青池作品に出会うまで

 私はマンガで育ってきた世代、小学生の頃の基本は本屋で立ち読み。少ない小遣いの中からどのマンガを買うのか。書店で単行本を1時間とか立ち読みして、その中で気に入ったのを購入。もちろん好きな作家のはすぐに買うけど、そうでない場合は立ち読みで確認してからってのが定番。マンガ雑誌も表紙をながめて、パラパラ程度は目を通す。

 私が青池さんのマンガを認知したのは、そんな小学生の時だったと思う。
 月刊プリンセス「イブの息子たち」の新連載、巻頭カラーだったと思う、タイトルの面白さに惹かれて読んだ。
 もぉ面白いの、面白いの、立ち読みだから大笑いを堪えるのに必死。コミカルな表現と歴史のパロディー、個性的すぎるキャラクターに大ウケ。
 よし、これは次号も立ち読みするぞ! そう、小学生にブ厚い月刊プリンセスは、なかなかの出費。他に「別冊少女フレンド」「別冊少女マーガレット」を可能なら買っていた頃。小遣いは単行本に回したい。

「イブ」の単行本を購入したのは、中学生になってからだと思う。当然、それ以前の作品も読んでみる。
 申し訳ない、正統派の少女マンガはほぼ記憶に残らなかった。「イブ」は、ある意味イロモノ。あの時代にゲイを主人公側に起用して、それをネタに話を作っているんだから。
 かと言って私は正統派が嫌いなわけじゃない。小学生から高校生までは里中満智子先生にどっぷり浸かってる。
 ただ青池さんは「イブ」以降がいいと思ってる。逆にそれまでの青池ファンは「イブ」を境に去った人もいるようだ。

ティリアンに出会う

 高校生になり、書店で「エル・アルコン -鷹-」全2巻を見つけた時も、中も見ずに購入。
ワクワクしながらページをめくると・・・美形の長い黒髪のティリアン・パーシモンが見つめていた。どシリアスの歴史物だ! 
 しかも主人公はダークヒーロー。16世紀、エリザベス1世の治世。スペインのスパイ、イギリス海軍将校。きたるべき開戦に備えて、よりイギリス海軍での地位を高くし、反旗を翻すために様々な策謀を計る。
 利用するために海軍提督の娘を籠絡、邪魔な将校や市民に無実の罪を着せる等々。処刑を前に無実の男は思う「(君のやり方は)まさに芸術だよ」。うーむ、こう書くと極悪人だな。

エル・アルコン単行本

 少女マンガの主人公なんだから、美形であるのは当然。そして上品である。下卑た男では主役は張れない。インテリジェンスも必要であり、部下たちに慕われるカリスマ性と優しさも備わっていなければならない。
 読者は、貧困から水夫となった少年ニコラスの目を通して彼を見る。彼の恐ろしさを感じながらも、その生き様を見ていたいと思わせる。人生の明確な目標があり、ティリアンは野心のために淡々と行動する。7つの海を支配するために生きた、すばらしく魅力的な男!
 私の初恋と言えよう。
 私もティリアンに殺されたかった! 口づけされながら殺されたかったよ! と、高校生なら思わずにいられない。
 本編はわずか連載5回、それに続編「テンペスト」が前後編で、単行本化にはたっぷりと加筆されても2巻。なれど、その衝撃は凄まじく、ある意味「よくこの話を少女マンガでやれたなー」と思わずにいられない。
 掲載誌は「月刊セブンティーン」(集英社)、純粋なマンガ雑誌では無く、ファッションや芸能記事も多く、誌名どおり読者層はハイティーンの少女。マンガとしてはマイナーな場所だから可能だったのか。(後に「ぱふ」のインタビューで青池さんも同様の事を言ってた)

 そもそも先に同誌に「七つの海七つの空」の連載があり、こちらは正統派ヒーローの、悲劇の過去持つ美形海賊が主役で、その敵役としてティリアンが配される。絵柄はまだまだ少女マンガーって感じだけど。
 ただ作家自身が主役をほったらかして悪役に惚れ込み活躍させ、主役を食いまくり、最期を迎えた。その前日譚としての「エル・アルコン」が生まれたそうな。絵柄もリアリティを求めるように変化していく。

「エル・アルコン」の連載、月刊セブンティーン(集英社)じゃ気づかんわ。プリンセスコミックで出版されてるから、秋田書店が版権を買い取ったんだろう。青池さん、月刊プリンセスで「エロイカより愛をこめて」でちょこっと出したハズの、ティリアンに似せた子孫のエーベルバッハ少佐が大いにウケ、主役を食らうがごとく大ヒットしてる時だし。主役のグローリア伯爵は「七つの海」の主役、レッドの子孫という設定。
 なお後年「アル・カサル -王城-」の主役カスティリア(現スペイン)王ドン・ペドロも黒髪サド目の美男で、ティリアンのご先祖という裏設定。まあファンなら知ってるけど。
 愛した男に引き摺られた青池さん、好きだ。

 さて小学〜高校まで、私は図書室の司書の先生に顔が効いた。マンガが好きだったが、同じように本も好きだったので。年中本を借りている生徒ならば、司書も好意を持ってくれる。読みたい新刊をリクエストすれば、たいてい購入リストに入れてくれた。
 そして図書室の本は保護のために、表紙を透明のブックコートフィルムで包んである。私はこれが欲しかった。司書の先生に頼んで個人的に購入させてもらった事もある。今は通販でも購入可能だが、当時、一般には流通していなかった。
 大切な「エル・アルコン」は、もちろんそのフィルムを貼っている。だが逆に、今は経年でフィルムシールの端に変色した接着剤が見えるのが残念ではある。

黄ばんだカバーフィルム

 マンガ評論誌「ぱふ」やサブカルチャー誌「OUT」は、特集が気に入れば購入してた頃。
 書店で「ぱふ」に特集 青池保子の世界(1980年 5月号)の時は、当然購入。

ぱふ1980年5月号

 美しきティリアンのカラーページ(名前のスペル、間違ってるけど)もさる事ながら、専門誌だからインタビューの内容が面白い。インタビュアーは作品について質問を投げかけ、マニアックな会話が続く。
 唐突に「チェーザレ・ボルジア」「塩野七生」 「ルネサンスの女たち」というキーワードが出る。

→ティリアン2


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