美形悪役が好きだ:
「KILLA」キラ

2021/08/26

ネタバレ 美形悪役が好きだ - KILLA:キラ

大ヒットの後

 少女マンガ「はいからさんが通る」で大ヒットを飛ばした、大和和紀先生の「KILLA」、漢字に総ルビが付くような週刊少女フレンド連載ながら、ピカレスク。

 私は「はいからさん」が面白くて、大和さんを認知した。少女マンガとは思えない快活な酒乱キャラクターがおかしくて、楽しんだ。
 作品として面白かったので、別に伊集院少尉にあこがれる事は無かった。少尉って「白馬の王子さま」キャラだし、それには興味覚えなかったので。好みで言えば青江編集長の方が断然いいな。
 完結後、ああ終わっちゃったなーと思い、さて次の作品はどうなるのかと期待する。
「薔薇子爵」退廃的なシリアス。こうきたか、単行本1冊だがとても好みだった。掲載誌は月刊mimiで読者層は少女フレンドより高いから、こういう話もいけるんだな。
 そして「はいからさん」に続いて少女フレンドで「KILLA」が連載される。

KILLA単行本

  キラ・クイーンが一介の孤児から演劇界、経済界とのし上がっていくピカレスク・ロマン。え? いいの? 少フレでこんな話。主人公は悪役だよ?大ヒットの後だから、こういう話でもOK出るのか。
 どんなものであれ大ヒットの後の作品は、作家も悩む所だろう。読者や出版社は続くヒット作を要求してくるし。大和さんのそれまでの経歴として、シリアス物とコメディ物がある。いくつか読んだが「レディーミツコ」は面白かった。
 大正時代のラブ・コメディとして大成功を収めた「はいからさん」に続いて「KILLA」は現代舞台のシリアス、方向性は180度の大転換。しかもダークヒーローじゃ、少女マンガとしてウケるんだろうかとは思ったが、私はとても楽しく読んだ。

 ロイヤル・シェイクスピア劇団の大御所を蹴落としてスターダムにのし上がり、育ての親も殺す。大企業の娘と結婚、義父を死なせ、子を身籠った妻さえも死に追いやる。企業トップとしてビジネスの荒波を超えつつ⋯⋯そんなサクセスストーリー。

nec spe nec metuゆめもなく おそれもなく

 単行本1巻の奥付の前ページのイラスト下部に「nec spe nec metu」とあった。当時、意味がわからなかった。英語ではないから何語だろうとは思っていたけれど。
 しかしその後、塩野七生氏の著作を読み、おそらくは「KILLA」を読み返していた時に、気付く。

nec spe nec metu

 これはっ! 「夢も無く、恐れも無く」というイタリア語は「ルネサンスの女たち」に記述のあったマントヴァ公爵夫人イザベッラ・デステのモットーではないか。(エル・アルコン、ティリアンの記事参照を

 作中でもこの言葉をキラの独白として使用されている。
 もしや大和さんも塩野七生氏の著作を読んでいるのでは? という疑問が生じた。
「ルネサンスの女たち」の初版は中央公論社1969年だが、それが中公文庫になったのは1973年。青池さんも大和さんも歴史はお好きのようだから、たまたま本を読んだかもしれない。あるいはイザベッラ・デステは結構有名女性のようだから、もしかして他の本でも目にした事はあるかもしれない。


 が、前項で書いた青池保子さんの「七つの海七つの空」「エル・アルコン -鷹-」、「KILLA」も連載や連載開始は1977年、ダークヒーロー物という同じジャンル。偶然にしては出来過ぎでは?と思えなくも無い。
 たしか青池さんは講談社でも描いてた事あったよな? 同じ少女マンガ家、どこかで接点がありそう。
 どちらかが本を薦め、同じように触発されてアイディアを広げていくって、いかにもありそうだ。そんな事を想像してみたが、確証を得られるような物は見付からなかった。

 あれから数十年。2021年7月、デビュー55周年記念で文藝別冊 総特集 大和和紀というムック本の広告を見る。その広告にはなんと鼎談ていだんで「青池保子・山岸涼子・大和和紀」という文字が踊っていた。やっぱり接点あったのか!
 この記事が読みたくて購入する。

総特集:大和和紀

 初期の頃にお互いに困った時にアシスタントをしていたという内容はあったが、残念ながら「塩野七生」の単語が出る事は無かった。
 そして作者への3万字インタビューでは「KILLA」はウケなかったとある。やっぱ、そうか。可憐な少女を手玉に取って結婚し、秘密に気づけば精神的に追い詰めて死へ。この辺が読者の少女達には許せないんだろーなー、多分。
 あとは「エル・アルコン」がウケた青池ファンと、「KILLA」がウケなかった大和ファンの、ファン層の気質の違いもあるのかも? 大和和紀さんは少女マンガの王道を行く方だから、それを求める少女達にすると、女を利用して捨てる男はアウトなんかな。

 私は「KILLA」気に入っていたので、いつか大判の豪華本にならないかと期待していた。大和さんは「あさきゆめみし」とか大判でも出てるし。(「あさきゆめみし」もすごく良いね。与謝野晶子の現代語訳を読んでいたけど、それでもよくわからかったので「あさき」を見ながら読み進めてみたりしてた。)
 が、ウケなかったとの事だし、今後も「KILLA」の大判は出そうに無いな。残念。
 しかし物語は面白かったが、主役のキラ・クイーンに対して個別に熱を上げる事は無かった。なんでだろう? やっぱり絵柄が少女マンガの綺麗さで、男を感じにくかったからかな。キャラとしてはルーファスが好みだ。でも作品としてはいいよ。マドロンとくっつないのも、いい(倫理的な面もあろうが)。

 ところで「KILLA」についてのWikipediaの説明、変だから! 
「異性および同性との恋愛がテーマ」って、違う! アレクに対しての愛情は恋愛では無い。恋愛よりもっと、別次元のもの。誰だよ、この文書いた人、ちゃんと読んでんの?

 あ「アラミス78」「ベビーシッター・ギン!」も好きや。
小説の匣

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