前に書いた文学フリマ東京37で買った同人誌、計13冊を読了。B5版のコピー誌から、印刷されたA5版やB6版、あるいは文庫本サイズまで様々。
資料として購入したが、すぐ必要ではない。今、書いてる二次小説が終わったら読む予定であった。が、今現在の資料として何冊か商業本を読んでいるうちに自分の「読書スイッチ」が入ってしまった。視界に入る同人誌が、私の集中力を欠いてくる。ああ、読んでしまいたい。
と、ゆーわけで結局すべて読んでしまったので、感想記事。私は素人であり、当然ながら自分の趣味においての感想である。
目的:自分が書く小説で、大学時代にサークルで小説を書いていた、文学青年崩れをキャラクターに使うので、実際の大学文芸部で彼らがどんな小説を書いているのか知りたかった。
購入したのは大学生、院生、もしくはそのOB・OGの本。つまりは狭い範囲の年齢の書き手による同人誌だ(正確には1冊、OBとしてはかなーり高年齢のがあるけど)。
通常、人が本を買う時・借りる時、自分の興味や好みのジャンルや作家を選ぶだろう。だが今回は年齢によって選んでいるため、好きな物を読むわけじゃない。読み進めるには、なかなかの苦行であった⋯⋯。
各本ごとに、収録作のタイトル・大学名・サークル名・本サイズ・作品タイトル・作品カテゴリ(小説・詩・論評・考察等)・小説なら一人称か三人称か・作品舞台・概要・感想という感じで表を作り、1作読むごとに記載していった。長編1冊を除き、12冊が合同誌のためほぼ短編、中編、あ、長編も1本あった。
なお、奥付けが無い本が2冊。たとえ赤字であろうと、販売しているのだから奥付けは表示しといてよ。
小説の視点
全90作品の内、小説は68作。なお年4回発行のコピー誌を2号分購入したが、これは連載作品が複数掲載。連載作は合わせて1作と数えた。
一人称:53作
三人称:17作
足した合計が合わないのは、3つの短い話をひとつの作品としていた物があり、それが一人称と三人称に分かれていたから。
とにかく一人称が多い! 自分なりの書きやすさ?なのかね。飽きる。またかよ、と思う(いや、面白ければ気にならないんだろうが)。幕の内弁当を選んだはずなのに、似たような惣菜ばかりが入っていた気分。それとも短編だと一人称になりやすいのか?
自分の今までの小説の読書経験(つまり商業本)からすると、一人称・三人称の体感比率は3:7、多くても4:6くらいかな? 主に長編だ。短編集もあったが、さほどの数ではない。あくまでも私の読んだ本からの体感比率なので、世の中に出回っている数多の小説の視点の比率がどうなのかは当然ながら不明だし、調べる人もいないだろう。
登場人物(主に主人公)や作品舞台
ただしSFやファンタジーなど舞台は現代とは限らないので、数に入れるには適当でない物、不明な作品はノー・カウント。
高校生(中学生含む) 12作
大学生・院生 5作
社会人 25作
書き手が大学生なのに、主人公や舞台が高校(中学)てのが結構ある。なんで? 社会人で無いにしても自身が属する大学生にもならないのは、なぜ? 現実逃避したい? あるいはより多くの読者のために?(高校進学率98.8%、大学進学率57.7% :最新)世間ズレしちゃった大学生よりも純粋(であろうと一般的に思われる)な高校生活の瑞々しさを表現したい?
そもそも主人公の設定が不明なのが多い。描写不足。主語を抜いた形で始まって、だいぶたってから俺とか私とかの主語が出てきて、ようやく一人称だとわかる。性別も男か女か不明のまま続く事もある。授業が云々とあっても、隣のクラスの、とかはあれど、他に記述がないから、中学なのか高校なのかも不明。会話文が続いて、間に地の文が無く、誰がどれを話しているのかもわかりにくい。三人称にしても問題は同じ。年齢が不明でも話としてまとまりがあるならいいが、そうでもないと「これはどういう人物か」が不明のまま。
大学生の主役が少ないのに驚いたが、これは世界的にも影響の大きかったCOVID-19のせいかもしれない。3年間、感染予防のために社会には様々な規制や制約があったし、今でもある。学校閉鎖やリモート授業などで、思い描いていた大学生活を送れてなかった。ゆえに想像・創造しにくいのかもしれない。そんな意味では、特殊な時代を生きた学生達でもある。
ちなみに本の書き手とは限らないが、購入時、それぞれの所属団体の男女比率を聞いてみた。男女半々、女性が多い、男性が多い、結構バラバラで団体によって違うんだな。
内容的雑感
・女性同士の恋、流行りなのかな? たまたま選んだ最初の2冊で、5作あった。テンプレートのように文章が進み、あくまでもプラトニックで、告白までの感じ。え、それでどうすんの? どれも似たような読み味。もうちょっと何か欲しかったな(ラブシーンという意味では無い)。その後の本には該当する物があまり無かったので、選んだ2冊でカブってしまったのは偶然か。
・これはSFだよな、と思えるのはSFファンタジーも含め7作。結構楽しめるのが多かった。わざわざSFを選択するからには、その設定で書きたい物語があるわけで、ヤマもオチもある。やっぱりアンドロイド的な物が出るんだね。
・幽霊モノが3作。ホラーやオカルトでは無く、主人公の前に幽霊あるいは生き霊が現れて願い事など聞くなどで物語が進む。3作とも主人公は男性、幽霊は女性だった。
・ミステリー2作、少ないのね。一番期待してたんだけど。
・連載作品は1回の分量が少なくて評価できない。年に4回発行なら、もう少しページあってもいいんじゃないのかな。
・いくつかの作品の中には、小説を書いている人物が出てくる。しかしながら多くが「陰キャ」(陰気な性格の人の略称)として、自分または他人が認識している。己の場合はコンプレックス的に思い、他者の場合は嘲るように。な・ぜ・だ! これは書き手がそう感じているからか? それとも学校のような狭い世界では、そう思い込んで(思い込まされて)いるからなのか? 創作するのは楽しい事じゃないか。素敵な趣味のひとつだろう? なぜ引け目のように感じるのか、不思議だ。私には理解しがたい。それとも「創作 = 陰キャ」というのが陳腐なパターン化しているのだろうか?
文章的雑感
人物設定にキラキラネームが多い! おしゃれなつもりで考えたんだろうが、読めねえ! 初出時にルビを振ってある場合もあるが、頭に残らずにその漢字の形で人物を認識しながら読んでる。凝りすぎない名前にして欲しい。作家のペンネームも読めないのが多い。
誤変換
時々、誤字と言うか、現代では「誤変換」だろうと思う漢字。推敲不足か。前後の脈絡で正しく読めはするけど。「身を飾る」が「見を飾る」になっているのが別々の本であって笑った。きっと変換で最初に出てきたのがそれなんだろうな。同じ間違いを犯す、別の誰か。
書き慣れていない文章よりも、おそらくは純文学を目指しての装飾過多・情報過多の一文が、いくつも続く方が読みにくくてイライラした。もっと文章、区切ってくれ。そのわりには必要な事が描写されて無かったりする。
面白く読めた物
自分が面白く感じた作品を、掲載誌と共に紹介。文学フリマWebサイトの出店者リストに旧TwitterやWebサイトがあるものは、それをリンクしておく。
部誌2023
勒の会・仙台一高 社会部OB+1
旅行記だが楽しく読めた。巧みでテンポ良く、こなれた文章。誌面の作り方も上手い。読みながら(書き手は出版業の人だろうか?)と想像したが、果たしてその通りだった。次の作品に「ライター兼編集者の樫辺 勒」とあり、やっぱりなと納得。しかし結構な長さの旅行記だ。作品順を考えれば、本題のための前菜の位置付けと思って読んでいると、なかなか終わらない。目次のページ数を確認してみると、この同行記の方がページ数が多い! 前菜では無く、別々の料理として食すべきだったのだ。
『八つ墓村』と「津山事件」の微妙な関係 峰わかばご存知の人はご存知な、津山事件。横溝正史の『八つ墓村』のメインでは無く、サブの出来事として描かれた事件の元ネタ。モデルとなった事件の土地を調査しながら考察している。「病弱」であるはずの犯人は、上り坂になっている道を重装備で駆け上がれるだろうか? など、現地を見てわいた疑問が興味深い。犯人の屈折した自己中心的な性格をあぶり出している。
すんません、一番面白く読めたの、小説じゃなくて。しかも文芸部ではなく社会部(って何だろう?)。
文学フリマのWebカタログに「2023年第6回仙台短編文学賞の河北新報社賞を受賞」とあったので、てっきり小説集かと。そしてOBとはあっても20代とか30代の若い方かと。卒業後、数十年を経た還暦過ぎの方々の本。でも文学フリマで最初に訪れたブースだったので、色々とお話なんか聞けて楽しかった。決して、若い大学生たちよりもずーっと自分に近いご年齢だったから、というわけではない。ええ、きっと。(あれは樫辺 勒さんだったのだろうか?)巻頭辞も笑えた。
なお河北新報社賞作の『ホダニエレーガ』片岡 力 名義の樫辺さん。2023年3月19日の河北新報に掲載されている(実はコピーをいただいた)。母の逞しさを描いた良い作品だった。
WORDSNOW
朱鷺の会 新潟大学 文芸部OB
鬱病の先輩の経験をネタに小説を書こうとする男。先輩に送ったインタビューへの返信は、予想しない内容だった。なかなかに面白く読めた。
この本もOBの方々。購入時の事を覚えていないが、若かったと思う。
えぇ列車でいこう
またたび七転 法政大学 日本文学研究会OB・OG・有志
都会の満員電車に不満を持つ男が、それを解消すべく東京メトロ社長宅に乗り込んだ。男が提案した、ぶっ飛んだ計画が現実となり、社会自体が変わっていく。文章の感じが星新一か筒井康隆を彷彿とさせた。
荒れ野を行く あきやま。多くの男を持つ女。29ってのはさすがに多すぎると思うけど、山手線を絡めたいなら仕方ないのか。ある意味、満たされずに彷徨う女が、なんかいい。カエル好きの男がいい味出してる。
路線を塞いで龍は笑う 鴨橋核使用の余波で、伝説のはずであった龍が地上に現れた。龍に接触しすぎた人間は発狂するが、人々は龍のいる生活に慣れ始めている。これはファンタジーSFになるんだろうか? 不思議な感覚。
こちらの本も現役生じゃなくてOB・OG。でも20代で若かったよ! 鉄道をテーマにして見事にバラエティに富んだ小説が7作。しかし鉄道オタクは1人もいないそうだ。
接客(と言うのだろうか?)してくれたお兄さんは書き手では無く、編集だった。てっきり現役生だろうと思って会話してたけど、社会人だったのね。本業も編集なのかな?
文庫本で携帯しやすく、文字の大きさもほど良く、左ページ上部にタイトル柱も入ってて読みやすい本。今回購入した本の中では一番楽しめた。まあ、表紙を開いて最初のタイトルページが「えぇ列車でいこう」では無く、既刊の「トラックに轢かれた」なのは入稿間違いだろうけど、ご愛嬌か。
MysPhilia(ミスフィリア) Vo;.25
埼玉大学 推理小説研究会
ヒト以外の知的生物も共に暮らす社会。診療所の入り口に倒れていた若い女。具合が悪いという彼女はヒトでは無く⋯⋯。さらりと素直に面白く読めた。
やっと現役生だよ!「推理小説研究会」なので、ブックレビューや読書会がメインの活動なのかな? それらの記事もある。小説は他に短編1作と、長編『月色の眼球』がある。締切か、ページ数での問題なのか、長編の解決編はウェブ上にあるむね巻末に記されている。なお116Pが白紙だった事もあり、私はウェブから完全版PDFをダウンロードして読了した。何と言うか、色々と惜しい。推敲が足りてないのかも。アイデアはいいがキャラの心情が描いているようで描ききれてないのが残念。ツッコミになってしまうので、まあこの辺で。長編を書き上げた作者に敬意を表する。
OUT 15
早稲田大学 早稲田文芸会
地球軍と異星人群のベースボールと、生きている餃子。メチャクチャさが笑えた。
フライバイ 八文 啓婚活補助のアンドロイド、他人を必要としない依頼人とのデート。孤独を楽しむ人生ってとこ。
うつろいとどめ 直木草明体を手に入れた「思考」が老いを受け入れるまで。SF、ある意味、百合になるのかも。
うーむ、見事にSFばかりを選んでしまった。文庫本で、間に挟まっていた綺麗な柄のしおりが素敵で嬉しい。
青衿2023秋号
東京都立大学 文藝部
1年前に死んだ、初恋の先輩女性。その幽霊が青年の前に現れた。残った未練のために、好きだった大学教員へ伝言を頼む。未練、情念、執念、かな。
ヒミツキチ
茨城大学ふみつづり
SF、新しいパーソナルロイドを購入した男の話。無理なく読めた。
読後感
色々読んで、とても参考になった。現役生よりもOB・OGの方がレベルが高いのは仕方ないだろう。社会に出て視野が広がったという意味もあるが、「社会人になっても続けている」事の方が大きいのでは。卒業しても創作活動を続けている、つまりはそれが好きなんだ。
好きなら、自ら努力するし勉強もする。そういう事じゃないのかな。まあ現代においてはインターネット上に発表する場も多くあるしね。
リアル本を求めて行った文学フリマ東京、もう少し玉が欲しかったな、とは思うけど。それにしても同人誌、あんなにきれいに出来るんだね。文庫本なんて書店の商業本と変わらない出来栄えだったよ。すごいな。
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