4年前の同窓会の時よりも、彼は太って見えた。クセの強い茶色の髪は久しく床屋に行ってないのか、もさもさと伸びて、伸びた前髪が水色のポップなメガネフレームにかかり始めている。そのメガネの奥の眼は、初めは興味深そうに見開いていたが、ジェロームが話し終えた時には少し退屈そうに細めていた。
「あまり面白くもない話だな」
水曜日、カフェで待ち合わせたゴシップ記者のルイ・モーリスは期待はずれの言葉を吐いた。ジェロームの話にさして興味を持ってはくれなかった。
「デカいプロジェクトに関わる裏金とか、先の市長が大統領選に出馬した際の不可解な献金があったとか、そんなものなら、ともかくな」
食べ終わったクロック・ムッシュの皿をずらし、グラスに少し残っていたビールを飲み干した。確認したウェイトレスがデザートとエスプレッソを運んでくる。
「まあ、ホテルの部屋に関しては確かに偶然が過ぎるな。花を女と想像するのもわかる。だが結局、想像だけだろう? 局長の方にしても、相手がコンサルタントだ。そもそも公共事業をメインに仕事してるやつかもしれない。それなら、知り合う事もあるだろうさ。おまえが不審に感じるのなら、簡単だ。ヤバそうな事は断り続け、その会社を選考から外すようにすればいいだけじゃないか」
「あまり面白くもない話だな」
水曜日、カフェで待ち合わせたゴシップ記者のルイ・モーリスは期待はずれの言葉を吐いた。ジェロームの話にさして興味を持ってはくれなかった。
「デカいプロジェクトに関わる裏金とか、先の市長が大統領選に出馬した際の不可解な献金があったとか、そんなものなら、ともかくな」
食べ終わったクロック・ムッシュの皿をずらし、グラスに少し残っていたビールを飲み干した。確認したウェイトレスがデザートとエスプレッソを運んでくる。
「まあ、ホテルの部屋に関しては確かに偶然が過ぎるな。花を女と想像するのもわかる。だが結局、想像だけだろう? 局長の方にしても、相手がコンサルタントだ。そもそも公共事業をメインに仕事してるやつかもしれない。それなら、知り合う事もあるだろうさ。おまえが不審に感じるのなら、簡単だ。ヤバそうな事は断り続け、その会社を選考から外すようにすればいいだけじゃないか」
「私がそう思っても、環境総局長が問題だ。似たように彼にも誘いをかけたのかもしれない。局長だけじゃなく、地域開発部長にだって同じ事かもしれない。そちらは女性だから別の形になるだろうが。2人がリナシメントを推したら、私だけではどうにもならない。だから調べてほしいんだ」
週が明けた月曜日、クラヴリー局長からは特になにも連絡はなく、会う事もなかった。ペルシエからの奇妙な提案を話してみるには局長の立ち位置が不明で、それができないでいた。
「ところで、そのコンサルタントと古本屋で知り合ったのは、偶然なのか? そこはちょっと気になるな」
そう言うと、モーリスはテーブルに置かれたデザートのタルト・タタンにフォークを入れた。
「それは今になれば、私も疑問に感じないわけじゃない。でも私が古本を探している事、たまたまそれを見つける事、どうやって知るんだ? スパイ映画じゃあるまいに。言った通り、そんなに企業に莫大なメリットがあるわけじゃないんだ。本当に偶然だったと思うしかないだろう。偶然が、嫌な話に繋がってしまっただけさ。向こうにしてみれば出会えてラッキーだろうがね」
うまそうにデザートを食べるモーリスは、自分こそがラッキーだという顔をしている。タルトを平らげると、満足げにエスプレッソを飲んだ。
「そんな事もあるもんかねぇ。いずれにしろ、気が乗らないね。調べるとなれば経費もかかるし、オレの人件費だってあるんだぜ。旧友だからって、ボランティアは勘弁だ。人気女優の愛人疑惑でも追っかけていた方が、よほど現実的で金になる」
そうまで言われてしまうと無理強いはできない。ジェロームは軽くため息をつきながら、モーリスに提案した。
「では、せめてクラヴリー環境総局長だけでも調べてはくれないだろうか? 経費と日当は支払ってもいい」
ルイ・モーリスは真剣な眼差しで自分を見つめる旧友に、少しあきれた。昔から真面目なやつだったが、身銭を切ってまで仕事に公正さを求めるのか。どうでもいいゴシップ記事を埋めるために日々働いている自分への、むず痒いような居心地の悪さを感じた。
「おまえ、もの好きだな。知らんふりしてたっていいじゃないか。なんでそこまでやるんだ?」
なぜ、と問われれば、ジェロームは答えに窮してしまう。不正が許せないのは当然だが、レティを軽んじたマルク・ペルシエへの対抗心なのだとは言えなかった。もちろん今回の件に関係のない彼女のことは話していない。そして彼女の前では誠実な人間でありたかった。
「性分でね。知らぬふりが、嫌なんだ」
理解できない、という顔をしたモーリスは飲み終えたエスプレッソのカップをソーサーに置く。
「軽く調べる程度なら、まあいいさ。仕事の合間に、やれる範囲でだ。ああそれから、変にその環境総局長に何かを尋ねたりしない方がいいな。向こうの動きがなくなるだろう。動きがあるのなら、の前提だがね。ああ、こっちの名刺も渡しとくぜ。昼間の連絡なら、社の方がいい。オレがいなくても伝言はできるし、急ぎなら呼び出しも可能だ」
モーリスは社名の入った名刺をテーブルに置いたが「まあ、そっちから急用なんてないだろうがね」とも付け加えた。
彼は席を立つと「じゃ、ランチごちそうさん。いずれ連絡する」と去っていった。
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